アルテ 第二章 その1
- 2013/09/30
- 23:11
アルバートの通された部屋は父親のチャールズの部屋であった。屋敷の中央部にこの部屋はあり、それなりに広く豪華な部屋だった。それなりにというのは家具やインテリアは必要最小限しか置かれておらず、無駄なものと言えば大きな地球儀が部屋の中央にあるくらいである。それらはチャールズの性格を良く表している。
窓辺にある長椅子に腰掛けてアルバートは、旅行鞄を開き、中身の整理を始めた。アルバートの心はついさっきまでの義姉とのやりとりで、平静を失っていた。アルバートのように自分の心を表現にぶつけてきた人間とって、一度、心の平静が乱れると、しばらくは引きずってしまう、他人から見れば呆れるくらいに繊細すぎる一面があったのである。そんな時アルバートはどうすればいいのかを経験的に知っていた。何か作業をした方がいいのである。ベットに寝ているよりもこっちのほうがずっと心が落ち着くのだ。
まずアルバートは衣類を整理し、クローゼットにしまうものと洗濯物と分け、食べかけのナッツの袋を縛り、楽譜の入った封筒を取り出し、髭剃りやヘアブラシを紙袋に入れると、兄から時間を意識しろというメッセージと共に誕生日の贈り物として贈られた懐中時計を取り出した。そして、鞄の一番底を開け小さな皮袋を取り出し、他のものは全てクローゼットの下の引き出しに入れた。
アルバートは皮袋の紐をほどいて逆さにすると、中にあるものを手の掌に取り出した。それは、金貨だった。聖皇金貨という金貨だった。アルバートはこれまでの自分の稼ぎをすべてこの金貨に交換してきたのである。この屋敷を出てから自分の稼いだ全てを交換した姿が、この4枚の金貨だった。アルバートは親指と人差し指で金貨をつまみ、日光にさらした。金貨は光を反射してまばゆい光を放ってきらきらと輝いた。百合の縁取りの丸い円の中に当代の聖皇アウグストゥス16世の横顔が鋳印され、複雑な飾り文字が施されている。宝飾品としても美しいとアルバートは思った。
聖皇金貨は教会の保証がある金貨として、人気と信用がある。アルバートはアーランドの宝飾店でこれを買ってきた。世が戦争に向う今、しっかりと保管ができる場所があれば、紙くずになる恐れのある紙幣を貴金属に変えておく事は損がない選択なのである。アルバートは長い一人暮らしの中で、金に対する用心深さを様々な失敗と共に習得していたのである。
それに、アルバートは確かに当主の座に着いたが、自分の自由にできる金など大してないことは良く解っていた。この金貨はいざという時、自分のために使う事が出来ると思っていたのである。それは僅かな額ではあったが、大切なものだった。
窓辺にある長椅子に腰掛けてアルバートは、旅行鞄を開き、中身の整理を始めた。アルバートの心はついさっきまでの義姉とのやりとりで、平静を失っていた。アルバートのように自分の心を表現にぶつけてきた人間とって、一度、心の平静が乱れると、しばらくは引きずってしまう、他人から見れば呆れるくらいに繊細すぎる一面があったのである。そんな時アルバートはどうすればいいのかを経験的に知っていた。何か作業をした方がいいのである。ベットに寝ているよりもこっちのほうがずっと心が落ち着くのだ。
まずアルバートは衣類を整理し、クローゼットにしまうものと洗濯物と分け、食べかけのナッツの袋を縛り、楽譜の入った封筒を取り出し、髭剃りやヘアブラシを紙袋に入れると、兄から時間を意識しろというメッセージと共に誕生日の贈り物として贈られた懐中時計を取り出した。そして、鞄の一番底を開け小さな皮袋を取り出し、他のものは全てクローゼットの下の引き出しに入れた。
アルバートは皮袋の紐をほどいて逆さにすると、中にあるものを手の掌に取り出した。それは、金貨だった。聖皇金貨という金貨だった。アルバートはこれまでの自分の稼ぎをすべてこの金貨に交換してきたのである。この屋敷を出てから自分の稼いだ全てを交換した姿が、この4枚の金貨だった。アルバートは親指と人差し指で金貨をつまみ、日光にさらした。金貨は光を反射してまばゆい光を放ってきらきらと輝いた。百合の縁取りの丸い円の中に当代の聖皇アウグストゥス16世の横顔が鋳印され、複雑な飾り文字が施されている。宝飾品としても美しいとアルバートは思った。
聖皇金貨は教会の保証がある金貨として、人気と信用がある。アルバートはアーランドの宝飾店でこれを買ってきた。世が戦争に向う今、しっかりと保管ができる場所があれば、紙くずになる恐れのある紙幣を貴金属に変えておく事は損がない選択なのである。アルバートは長い一人暮らしの中で、金に対する用心深さを様々な失敗と共に習得していたのである。
それに、アルバートは確かに当主の座に着いたが、自分の自由にできる金など大してないことは良く解っていた。この金貨はいざという時、自分のために使う事が出来ると思っていたのである。それは僅かな額ではあったが、大切なものだった。